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工藤俊作のこと サムライとは

興味深い人物なのでコメントしてみたい。

工藤俊作とは、昭和42年3月、極めて危険な状況の中、海上を漂流する422名のイギリス海軍将兵を救出し(自艦乗員の2倍)、介護した駆逐艦雷(いかずち)の艦長のことである。この出来事、”人道的暴挙”ともいっていい。戦場で停止した軍艦などカモである。また、反乱でもされたら艦が乗っ取られかねない。この判断、それなりに考えただろうが、軍人の枠を超えている。

救出されたイギリス海軍士官は、これを後に騎士道とたたえ、日本では彼を最後のサムライとも呼んでいる。その経緯は本にもなっているし、ネット上の記載も多いので省く。

できすぎた話だ。救出した敵の士官を集めて、流暢な英語のスピーチまでしている。その内容も気が利いている。

「貴官らは勇敢に戦った。今は日本帝国海軍の名誉ある客人である」と安心させ、艦内・艦上にあふれる敵兵には一つの規則しか与えなかった。「夜間喫煙厳禁(タバコの支給もしたから)」。

豪快である、かつスマート。当時の日本では、鬼畜米英だ、さらには一億火の玉だ、とか言ってた時代に、である。英語なんて使ったらスパイ扱いで取調べされそうだ。スマートとは、本来の意味でスマートである。

そういう性格といえばそれまでだが、彼の精神性の背景を知りたいと思った。

彼の出身校をみると、現、山形県立米沢興譲館高校、かつての米沢藩、藩校である。米沢藩といえば、上杉鷹山や直江兼継が思い浮かぶが、関係は十分ある。直江兼継の禅林文庫が後世に上杉鷹山によって再興され、興譲館となったとされる。

藩校とは、武士のための儒教教育の場である。だから彼の学んだ当時にも、この精神は濃厚にあったと推測したい。また、この学校は、明治4年から英語教育のコースも作っている。語学の伝統も加わったといえるだろう。

直江兼継の「愛」がこのエピソードに関わっているといえば、嘘だろう。当時と今では意味が違う。しかし、「興譲」ってことばは気になる。

これは、当然に儒教の経典からきている。

「一家仁一国仁、一家譲、一国興譲」つまり、仁と譲の徳目がこの学校の建学精神である。今どき建学精神なんて、あまり気にしないが、当時としては藩政改革、人材育成が急務の課題であった。彼の学んだときにも、この遺風があったに違いない。仁は分かるが、譲は珍しいように感じる。

それは、ざくっといえば、仁=真心と思いやり、譲=尊大にならない自制でもって国家を支える立派な人になりましょう、ということだ。

彼は、当時当然に行われていた暴力による私的制裁を禁じた艦長でもあったそうだが、こういった教育背景も関係しているかも。裏を返せば、暴力に頼らないリーダーシップが可能であったということ、これは儒教の実践的理想である。だから困難な救出行為の実現もできた。いかに軍隊といえども、今なら「マジですか・・」ってことになるだろう。しかし、乗員たちはよく働いたようだ。

海上に放置された敵兵を救うなど、まさに仁、礼節ある対応をする行為は譲に相当する。実に母校の精神を体現している。彼が武士道に従ったとすれば、これがコンテンツである。

もう一つ。当時は交戦中であったとはいえ、もともと日本海軍は相当にイギリス海軍の影響を受けている。これは士官のマナーまで及んでいた。

戦後、英国に学んだ元海軍士官がそのマナーにおいて絶賛されたことがあったそうだ。「これほど正統なマナーはここでも廃れている」とか。彼に騎士道もあったとすれば、このあたりの事情もあるはず。マナーとは貴族の子弟の学ぶ寄宿制学校=パブリックスクールのマナーのことである。もともと英国の貴族とは軍事的意味合いも強い。

彼の英語スピーチにはこんなくだりもある。「私は英国海軍を尊敬している」。これはリップサービスではなく、本音だろう。海軍士官なら、英国との深いかかわりを心得ているはずだからだ。

しかし、戦争とはやはり非情である。その後、彼が駆逐艦雷を去ったのち、雷はアメリカの潜水艦によって撃沈されている。生存者なし。

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