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アイリッシュハープのこと

以前、国際交流を目的とする市民団体から、アイルランド音楽について講演を依頼されたことがある。このときの質問の一つ、「アイリッシュハープと普通のハープでは、どちらが進歩していますか」というものがあった。嫌な質問だな、と思った。わざわざ進歩による優劣を楽器につける必要はない。

そもそもアイリッシュとクラシックでは、異なるジャンルなので、どちらが進歩しているとか、そんなこといえません、と穏便に答えておいた。

物理的には、アイリッシュハープといってもいろいろある。あえていえば、多くがレバーで半音を調整する点で、足踏み式の一般的なハープとは異なるといえるだろう。しかし、これが本来のアイリッシュハープと特定できるハープはない、また広くケルティックハープなんていえば、もっと漠然とした形態の広がりになる。

ただ歴史的に演奏様式に立ち返ってみると、その違いははっきりする。それは、演奏しながら語り、詠うということだ。これは、オーケストラのパートの一部になっている今風のハープの使い方とはかなり異なる。

アイリッシュハープといえば、あの盲目のオキャロランなしに語れないが、オキャロランは地域の有力者たちの庇護を受けて、演奏活動の旅を続けた。今に伝えられるオキャロランの曲の多くが、人名にちなんでいるのはこのような背景があるからだ。つまり、唄と演奏が特定の人に捧げられるものだったからである。

この様式は、ケルト的な吟遊詩人の姿を彷彿とさせる。古くは、王侯貴族の祝宴の場がハープ奏者の活躍の場だった。ハープ奏者たちは、王をたたえ、また戦士の武勇、悲恋の物語を後世に伝えられたのだろう。そこには、言葉と音楽による呪力も想定されていたに違いない。

アイリッシュハープを学んでみたいと思う人なら、ぜひこの点も知っておいてもらいたいと思う。近代的な音楽が失った力を、少しでも取り戻してくれたらすばらしい。別にケルトの英雄を再現してくれなくてもいいが、悲しむ人を励まし、または新たな門出を祝うような演出に、アイリッシュハープは向いているのでは。

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